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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)763号 決定 1958年2月05日

抗告人 安彦幾蔵

相手方 星名寅治

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、抗告人は星名容子にたいする金銭債権にもとずき東京地方裁判所に申請し不動産仮差押命令を得、その執行として千葉市所在の右星名容子所有の本件建物に仮差押登記がなされた、相手方は右建物が相手方の所有であることを主張し右星名容子および抗告人を被告として東京地方裁判所に右仮差押の執行を排除する訴を提起し、同裁判所昭和三十二年(ワ)第六三二一号第三者異議等訴訟事件として係争中同年十一月一日付訴状訂正書を提出し従来の仮差押にたいする第三者異議の請求を本執行にたいする第三者異議の請求に変更する旨申立てるとともに、右訴訟事件を新請求の専属管轄裁判所たる千葉地方裁判所へ移送する決定を求める旨の申立てをした、原裁判所は右訴の変更を許容すべきものとし、その結果前記建物にたいする本執行の執行裁判所たる千葉地方裁判所に右訴訟事件を移送する旨の決定をした、しかし訴の変更は訴の客観的併合の特別の場合であるから訴訟進行中請求を変更するには民事訴訟法第二三二条の要件はもちろんのこと、同法第二二七条、第二七条による訴の併合に関する要件を備えなければならない、したがつて本件の場合旧請求の係属する東京地方裁判所に、訂正せられた請求についても管轄権がなければならないところ、本件の新請求である強制執行にたいする第三者異議の訴は、執行裁判所たる千葉地方裁判所の専属管轄に属し、東京地方裁判所は管轄権を有しないこと明かである、よつて本件のような訴の変更は許さるべきでなく、したがつて移送の裁判もまたなすべきものではない。原決定は不当であるから取り消しを求めるというのである。

これにたいする当裁判所の判断はつぎのとおりである。前記訴訟記録によれば、本件仮差押の基本たる相手方の債権は、本件建物の仮差押登記のなされた後に裁判上確定し、執行力ある判決正本にもとずき、千葉地方裁判所において本件建物につき強制執行手続が開始されたことを認めることができる。ところで債権者のなした仮差押にたいし、第三者異議の訴訟を提起した場合においてその訴訟中仮差押の基本たる請求に関する判決が確定し、これにもとずく強制執行が、仮差押にかかる財産について行われるにいたつた場合には、原告としては右仮差押にたいする第三者異議の訴はこれを維持する必要を失うと同時に新たな強制執行について異議の訴を起すことを必要とするこというまでもない。かような場合従来の訴における異議の理由を理由とする強制執行にたいする第三者異議の訴は、請求の基礎に変更のないものとみるべきであるから、原告が従前の訴における請求を変更することによつて強制執行にたいする第三者異議の訴とすることは民事訴訟法第二三二条第一項本文の要件に欠けるところはない。

結果として客観的併合訴訟をもちきたすべき「訴の変更」は、併合訴訟のゆるされるべき要件をそなえなければならないことは、いかにも、抗告人所論のとおりである。ところが、本件の訴の変更は、仮差押執行異議の請求を撤回し、これにかえて強制執行異議の請求をもちだしたもので、訴の変更のうち、交換的変更ともいうべき場合であるから、訴併合の要件のそろわないことは、本件訴変更をゆるさない理由にはならない。

いわゆる交換的の変更の場合に、あたらしい請求が専属管轄に服するものであつて、その管轄裁判所が従来係属する裁判所以外である場合、訴の変更をゆるすことは、なにか道理にあわないという思いがするのは、いちおう、もつともである。しかし、交換的訴の変更によつてあたらしい請求をもち出すことはその実質においては訴の提起にほかならない。訴の提起は管轄権ある裁判所にすべきものであるはもちろんながら、管轄権のない訴の提起を受けた裁判所は、これを不適法として却下することなく、管轄権ある裁判所へ移送するというのが現行民事訴訟制度である。だから本件の強制執行異議の請求が従前係属の事件とは独立に、東京地方裁判所へ提起されたならば、東京地方裁判所はこれを千葉地方裁判所へ移送したであろうことうたがいをいれない。ところが、訴の変更によつて同一の請求をもちだすと東京地方裁判所に管轄権がないとの理由だけで訴の変更をゆるさないとすることは、実質においては、管轄違いのゆえをもつて訴を却下するに等しく、独立起訴の場合とのつりあいがとれない。むしろ訴の変更はゆるされるものとし、ゆるされた結果、訴訟は管轄違となるから、これを管轄権ある裁判所へ移送するということにした方が管轄に関する現行法のたてまえから筋がとおつており、また、原告としては、たとえ少しでも従前の訴訟手続を利用し得るという利益があり、被告にしてもべつに不利益をうけることはないのであるから、実際の便宜にもかなうというものである。

してみれば本件訴の変更を許容すべきものとし、したがつて右変更せられた請求による訴訟は千葉地方裁判所の専属管轄に属するにいたつたとして同裁判所へ移送する旨原裁判所が決定したのは正当であり、本件抗告は理由がないから主文のとおり決定する。

(裁判官 藤江忠二郎 谷口茂栄 満田文彦)

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